2011年5月23日月曜日

私の映像資産は、こうして始まった。

Internet が始まる前、従って Amazon も、まだない時代、そして、丸善や紀伊国屋に「洋書」を注文しても、2,3ヶ月かかっていた時代のこと。昔、昔のようですが、20年ちょっと前。
その頃、私は、London の GoodBook Guide と、NY の Barnes & Noble などからもっぱら美術書や European Medieval History の本を、fax で注文していた。映像資産ではないが、私の medieval Europe 関係の蔵書は、洋書・和書あわせて、200冊くらいあります。これも資産。

GoodBook Guide からは,毎月推薦本の表紙の写真入りの綺麗な小冊子を送って来た。Burnes & Noble も毎月 catalog を送って来た。その中に、本以外に、特に BBC が出している video があった。
ヨーロッパの video は、PAL 方式で、日本とアメリカは NTSC 方式で互換性はない。
当時日本では、PAL 方式の video recorder は、市販されていなかった。そこで、大学出入りに電気屋さんに頼んで、探してもらったら、AIWA の輸出用の PAL と NTSC のどちらも play できる video deck が手に入れることができた。
そうして、買った video の代表が、下の画像。

後になって知ったことだが、これらは、BBC がテレビ放送を始めた時、BBC Two の初代 Controller になった David Attenborough が企画して始めた、一連の documentary series だった。
その最初の作品が、Lord Clark の Civilisation.
これは、1969年(昭和44年)放送されたものでした。当時は、まだカラーTV camera のない時代で、映写機の film 撮影です。13カ国117箇所、118の museum で撮影された。距離にして80,000 mile を Lord Clark (この番組の成功によって Lord に叙せられた)は、旅したのです。
とにかく、これを見た時は感激しましたね。日本で、テレビが一般家庭に普及し始めたのは、昭和34年4月の、今上天皇の美智子妃とのご成婚の時。カラーTV が普及したのは、昭和39年の東京オリンピックの時。
テレビ以前の映像作品といえば、映画。映画といえば、映画俳優が出演するドラマ、と相場が決まっていた。映画を見に行くというのは、そういう映画を見に行くことだった。映画には、ドキュメンタリー映画という分野もあるが、そういうものが、映画館にかかることは、先ずなかった。あったとすれば、レニー・リーフェンシュター監督によるベルリンオリンピックの記録映画『オリンピア』か、市川昆監督による『東京オリンピック』。
日本のテレビでは、その頃当時優れた旅のドキュメンタリー映像作品『兼高かおる世界の旅』が放映されていた。
しかし、それは、その他の多くのドキュメンタリー映像がそうであるように、そこにあるものをそのままカメラで捕らえたものだった。この言い方わかりにくいかな。そのままというのは、現在進行形で動いている人物や、風景や、そこで行われている動作や会話など、スティルカメラでなく、ビデオカメラ

や映画カメラでしか写せない場面を写して編集した、最近のことばで言えば動画映像作品ということ。
BBC の一連のテレビ作品は、特に Lord Clark の Civilisation などの初期の作品は、映写機による撮影で、スタジオでないない、いわゆる、室内も含む、ロケーション撮影で、現在進行形で動くものを撮影した動画映像ではなかった。
逆に言うと、絵画、建物など、動かないものを撮影して、既に、歴史のかなたに消えて、今見ることの出来ないものを再現するという映像作品だった。
Civilisation の場合は、過去から現在に至る Civilisation の歴史を、Lord Clark の personal view として、過去に描かれた絵画、立てられた建造物を通して辿ろうと、言うもの。
このシリーズの制作を始めた Attenborough の仕掛けが、また画期的だった。
この BBC のシリーズでは、Author/Presenter が、全部台本を書いて、自らが出演するようになっている。台本というと、映画の台本のようなものを想像されるが、そうではなくて、ちゃんとした本で、それが証拠に、この台本は、後でほとんどそのままの形で本としても出版される。だから author 。そして、誰あろう著者自身が登場して、present をする。
だから、Author/Presenter です。
誰に対して、present するか。当たり前ですが、テレビを見ている人に。
学会とか、会社の説明会とか、最近は presentation software と PowerPoint などを使ったpresentation がある。日本語では4語カタカナに縮めて「プレゼン」と言うが。その「プレゼン」の時には、ちゃんと聴衆の方を向いてしゃべらなければ失礼でしょう。聴衆の方を見ずに、横の方を見ていたら、失礼というより、一体誰に対して「プレゼン」してるか、と思われる。
日本のテレビを見るときによく気をつけて見てください。アナウンサーや、ニュース解説の番組などでは、出演者は、視聴者の方を見てしゃべりますが、大抵の番組では、まっすぐ視聴者の方を向いてしゃべるのは、まれ。対談などで出てくる場合は、司会者と対談の相手が、向き合ったしゃべっていて、視聴者は、いわば、また聞きをしている感じ。
まあ、そういうことは、どうでもいいです。
BBC のこのシリーズでは、例外なく author/presenter が、まっすぐ視聴者の方を見て語りかける。後ずさりしていく場面でも、顔だけはこちらを向けて語り続ける。後から気がついたけど、BBC の番組だけでなく、その他の番組でも、そういうのが多い。History Channel の番組は、そうでもないものが多い。
テレビというと、entertainment のためという要素が強いが、このシリーズは、大学レベルの講義を、すばらしい映像つきで聴講している感じ。だから、大学の講義より面白い、どころでなく、よく分かるし、記憶に残るし、まずは、退屈しない。
Civilisation は、放送された時、英国で1,363,000の家庭で見られた。 Viewer の数で行くと、250万人。このレベルのテレビ番組を見る人がこれほど多いのは、イギリスの知的レヴェルを示すものでしょう。
この author/presenter 方式について、Amazon.com の editorial review は、次のように書いている。
Attenborough, as well as narrator Kenneth Clark, pioneered the direct-gaze speaking style of the narrator along with the concept of placing the narrator in the setting he refers to.
こういう style は、それまでの、そして、その後も、BBC のこのシリーズ以外にはないですね。
大体がですね。感心するのは、Lord Clark に限らず、この後も2,3の作品を紹介したいと思っていますが、Author/Presenter として登場する一流の学者たちが、みんな一流の俳優のように、表情豊かに、流暢に聞き取りやすい明確な英語で語ることです。
私自身も反省しきりですが、日本の大学教授は、話し方が下手な人が多い。

Civilisation は、このような構成なので、BBC は、この一連シリーズを一応 documentary とカテゴリーに入れていますが、このシリーズを、解説つきで、list up した unofficial site があって、そこでは、BBC Factual Programmes としています。残念ながら、このサイトは、今はなくなっています。私は、必要ファイルを含めて保存してあるので、いつでも見ることが出来ますが。
テレビ放送が始まったとき、それまでの映画が fictitious な劇映画の趣向を受けて、やはり、fictious な drama が多かったのに対し、fact に基づいた programme を制作したので、factual programme と呼んだのは、適切でした。
この Civilisation 今は DVD で出ていて、Amazon.co.jp で¥ 6,749 で買えますが、アメリカからの import ですので、日本の DVD player/recorder では、見れません。どうしても見たければ、regional code が同じの英国の Amazon.co.uk から買うか、Amazon.com から、VHS で買うかです。 それとも、BD で出るのを待つかですね。それまでして見る価値はあると思う人は、そうしてください。
Amazon.com の customer review に、これを、孫が大きくなったら是非見せたいというのがありました。
こういうものを、「資産」として、代々受け継いでいくという知的風土があるのですね。
Civilisation の話しだけで、長くなってしまいましたが、私が、映像作品を「資産」と思うようになったのは、この Civilisation を初めとする BBC の factual programmes だったので、つい熱が入りました。
「映像資産」としての、このシリーズの他の作品については次回以降に紹介します。

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